滞納マンション管理費等の回収に掛かる弁護士費用は,管理規約の定めがあれば滞納者に負担させることができます。管理規約でどのように定めればいいのか,これについては国土交通省作成にかかる標準管理規約第60条2項に規定があります。

「組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には,管理組合は,その未払金額について,年利○%の遅延損害金と,違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して,その組合員に対して請求することができる。」

ただ,違約金としての「弁護士費用」といっても,どこまでの弁護士費用をカバーするのか,その範囲については必ずしも一義的とはいえませんでした。

この必ずしも一義的ではない「弁護士費用」の内容について,東京高裁での判断が下されておりますので,以下にご紹介します。

平成26年4月16日東京高裁判決(判例時報2226号26頁)

事案は,滞納管理費等の請求ですが,これに加え,第1審原告が,同被告に対して,弁護士費用として102万9565円(内訳:着手金32万6846円,報酬金65万3693円,消費税4万9026円)を請求したところ,

原審(平成25年10月25日東京地裁判決)は,

「弁護士費用は確定金額ではないことからすると,実額ではなく,当該事案につき,その請求等に要する相当額ということになり,これは裁判所によって認定されるべきものとなる。しかるところ,本件訴訟で請求されている管理費等の額,被告の対応,その他本件における諸般の事情を総合考慮すると,同額は50万円とするのが相当である。」

と判断を下しました。

つまり,管理規約で管理費等の滞納分への加算が認められる「弁護士費用」とは,管理組合が実際に弁護士に負担する金額ではなく,あくまで裁判所が相当と判断する金額だとしました。

ただ,これに対し,控訴審(平成26年4月16日東京高裁判決)では,

「このような定めは合理的なものであり,違約金の性格は違約罰(制裁金)と解するのが相当である。したがって,違約金としての弁護士費用は,上記の趣旨からして,管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用と解される」

との判断を下しました。

つまり,管理規約で管理費等の滞納分への加算が認められる「弁護士費用」とは,裁判所が相当と判断する金額ではなく,管理組合が実際に弁護士に負担する金額だとしました。

また,このように解することとなると滞納者に過度な負担を強いることになる,という滞納者側の主張については,「そのような事態は,自らの不払い等に起因するものであり,自ら回避することができるものであることを考えると,格別不合理なものとは解されない。」と退けております。

ただ,上記控訴審判決では,「管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用」としつつも,管理組合側が求めた弁護士費用について「不合理であるとは解されない」とも判断しており,当然のことながら,弁護士費用であればなんでもかんでも無制限に滞納者に負担させることができる,というものでもありませんので注意してください。

また,上記控訴審判決では,「違約金としての弁護士費用」を一義的に明確にするために,管理規約上の文言について,単に「違約金としての弁護士費用」とするのではなく,「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいとも付け加えております。

今回の東京高裁判決を受け,今後,管理規約の設定・改正にあたり標準管理規約第60条2項を盛り込む際には,表現方法など違約金条項の明確化を意識されるとよろしいかと思います。