マンションの機械式駐車場浸水事故に関する裁判例(東京地裁平成25年2月28日判決・平成23年(ワ)第30820号)をご紹介します。

地下に収納される機械式駐車場の場合,台風などの影響で大雨が降ると,雨水が地下に流入して,地下に格納されていた自動車が浸水し,使い物にならなくなってしまう事故が発生することがあります。このようなときに,入居者(自動車の所有者)は,駐車場を管理する管理会社に対して,損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

今回紹介する裁判例では,大雨により機械式駐車場に設置された排水槽の満水警報が作動したにもかかわらず,管理会社が委託する警備会社のパトロール員が,警備業法で設定される時間から倍以上遅れた1時間余りを要してようやく現場に到着したが,既に自動車が水没していた,というものでした。

本裁判例では,因果関係や損害,過失相殺なども争われておりますが,ここでは被告の注意義務の内容と免責規定の適用の有無について紹介します。

(1)注意義務の内容について

管理委託契約はあくまで管理会社と管理組合との契約であることから,管理会社は,マンションの入居者に対して直接契約上の義務は負っておりません。

やむを得ないとことではありますが,この部分を誤解されているマンション入居者の方は多いです。また,管理会社は,あくまで管理会社と管理組合との間の管理委託契約等の契約に基づく義務を負っているのみで,マンションに関するありとあらゆる作業を管理会社がやってくれるわけでもありません。ここも誤解されている方が多いです。一度,管理会社との間の管理委託契約の内容を確認してみてもよろしいかもしれません。

少し脱線してしまったため本線に話を戻します。上記のとおり管理会社が義務を負っているのは管理組合に対してではありますが,本件では,管理組合に対してだけではなくマンション入居者に対しても緊急出動する義務を直接負っており,故意過失によりこの義務に違反すれば不法行為責任を負うと判断されております。本件の管理会社は,管理組合との間で排水槽の満水警報が作動した場合には警備会社のパトロール員を派遣し,必要な措置を行う旨を約し(遠隔管理業務委託契約),これを踏まえ,管理会社,マンション入居者に対して入居説明に際し24時間の監視体制を謳い安心感を与えていたためです。事例判断ではありますが,本件管理会社は不法行為責任は免れないとされています。

なお,原告は,上記緊急出動義務の他,浸水が予想される場合には,予め駐車場利用者に対し注意喚起などを行う義務(通知義務)や,土嚢を設置する義務(土嚢設置義務)も主張しておりました。過去に事実上,被告が掲示板での警告掲示を行っていたり,土嚢が設置されたことがあったためです。しかし,それでも本件では管理委託契約上,いずれの義務も明確に規定されていなかったことから,上記緊急出動義務とは別個独立した義務として管理会社が負っていたとはいえないと判断されております。

管理委託契約の内容は重視されております。管理会社の緊急時の対応については,特に利用する側である駐車場契約者の方,管理する側の管理会社の担当者の方,いずれの方も管理委託契約等の内容を改めて確認されておくこととお勧めします。台風が予想される場合などの緊急時の対応について双方の共通理解としておけば,本件のような自動車を廃車にしなければならないような被害はなくなっていくのではないでしょうか。

(2)免責規定の適用の有無について

本件管理会社は警備会社に委託していたこともあり,警備会社のパトロール員の派遣に関する免責規定がありました。天変地変その他の不可抗力の場合の損害や,局地性の豪雨等により緊急対応事案が同時に多発したり,道路事情が悪化する等して,警備会社が通常の時間内に対象施設に到着することができないことにより発生した場合の損害については免責される,という規定です。被告は,この免責規定の適用を主張しました。

が,本件では過去の降雨量から不可抗力の場合とはいえないとし,また,局地性の豪雨といえる証拠もなく,さらに,本件浸水事故当日,警備会社には1時間のうちに8件も同じような警報の作動があったものの,本件マンションでの過去の浸水事故の例から優先的に本件マンションに出動すべきであり同時多発ともいえないとし,免責規定の適用は否定されています。

なお,被告は,駐車場使用契約上の免責規定の適用や,管理委託契約上の免責規定の適用も主張していましたが,いずれも遠隔管理業務委託契約上の義務を根拠とする管理会社の注意義務を免責するものではないと,裁判所はこの主張を退けております。

事例判断ではありますが,マンション内で過去に浸水被害が起きているような場合には,管理会社も他のマンションに比べよくよく注意しておく必要があると思いますので,数年毎に代わる管理会社の担当者は改めて平時に確認しておく必要がありそうです。

ここ数年,異常気象が多く,管理組合,管理会社においては,入居者の快適かつ安全な生活のためにも,平時に備えられることはできる限り備えておきたいところです。